分権国家の憲法理論――フランス憲法の歴史と理論から見た現代日本の地方自治論

2015年刊。 大津 浩 著 / 定価(本体7,000円+消費税)/ A5判上製/432頁/ ISBN978-4-8420-1074-8

近・現代立憲主義の普遍的原理のもとで、「地方自治の本旨」はいかに解されるべきか。
フランス憲法史・理論を中心に政治理論を抽出し、「対話型立法権分有」「分権国家」の憲法原理としての可能性を問う。
新たな解釈論への示唆を目指す、野心的な地方自治論。


書籍


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主要目次

序章 地方自治の憲法理論の現状と再構築の必要性
第1部 「分権国家」の歴史的基底
 第1章 フランス憲法革命期における「単一国家」
 第2章 フランス近代地方自治制度確立期における「単一国家」
第2部 「分権国家」の憲法原理
 第3章 フランス近代公法学説における「単一国家」型地方自治の憲法原理の成立
 第4章 現代憲法理論における「分権国家」原理の成立とその射程
終章 分権国家の憲法解釈への展望

―担当編集者より一言―
  本書は、一貫して憲法上の地方自治についての研究を重ねてきた著者による、日本国憲法解釈論への示唆を視野に入れた、地方自治に関する憲法原理的研究の成果です。

  世界的な地方分権改革の流れのなか、日本国憲法における地方自治、とりわけ92条の「地方自治の本旨」はいかに解釈されるべきか。このことは、これまでの憲法学において、必ずしも本格的に論じられてこなかった、と著者は考えます。そこで、著者は、近・現代立憲主義の普遍的な憲法原理の確立と深化に通じる大きな潮流を探求することから、この難題に対する示唆を得ようとします。すなわち、国民主権原理と垂直的権力分立の観点から、この難問にアプローチします。そのため、国民主権原理について、その精緻な理論と歴史的展開をフランス憲法史・理論史にもとめ、また、垂直的権力分立については主にアメリカにおける議論を参照します。そのうえで、「対話型立法権分有」を核とする「分権国家」を普遍的憲法原理として提示します。

  連邦国家における場合は別論として、一般に、国民主権原理と垂直的権力分立とは容易には両立しないといわざるをえないでしょう。著者による従来の憲法理論の整理によれば、少なくとも民主主義を重んじる国では、必然的に前者が後者に優越するものとして理解されてきました。地方自治の保障は、国民主権の軽視とみられてきた、というのです。

  しかし、国民主権原理の観点から、端的に、地方自治は「地方行政」にとどまる、といってしまうことになれば、はたして地方自治の保障という理念には、何の意味があるといえるでしょうか。ここで、著者は、国民主権の充実と深化を目指す方向に沿って、国の立法権にまでも対抗して地方自治を保障しうるような理論を構築する必要性をみいだし、その困難な道を追究しています。ここに本書の独自性があります。著者は、「国民主権の地域的行使としての地方自治」という概念をてこに、「対話型立法権分有」という憲法原理を見出そうとします。

  この野心的な作業は、フランスの地方自治の歴史分析や、コンドルセ、オーリゥといった古典的理論家の主張、あるいは現代の討議民主主義論やロザンヴァロンの対抗的民主主義論にまで及ぶ理論分析を通じて行われます。その緻密で歯ごたえのある論理展開は、知的な挑戦を望む読者に、十分な興奮を与えるでしょう。また、地方自治に理論的な基礎づけをもとめる読者には、新たな視座を提供することになるでしょう。

  このような特徴を持つ本書は、地方自治に関心を持つ憲法・行政法学研究者はもちろん、分権改革の行方が混迷状況にある現代日本の政界や自治体の関係者および歴史普遍的な憲法原理に立ちかえって、深く地方自治を理解し実践しようとするすべての読者に、お薦めすることができます。